COLUMN written by Yamazaki
第16回
 
報道の嘘
 
 

 
  私は、第 12 回のコラムで、「証券市場には無数の情報が飛び交っています。その中には市場のコンセンサスという名のもとに、十分な吟味がなされないものも多くあります。それに乗って投資判断するというのは、思考停止以外の何物でもありません」と記述しました。
  今回、ライブドアとフジサンケイグループとの対立の中で、マスコミ報道が、いかに誤りを垂れ流しているかということの一例を挙げてみましょう。
  3 月 23 日、東京高等裁判所は、 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告に関して、ニッポン放送の抗告を棄却し、ライブドアの主張を認めました。
  その日、ほとんどのマスコミは、ライブドアの法廷闘争 3連勝、完全勝利と報道し、フジ側が窮地に追い込まれたかのような印象を大衆に流布しました。中には、高裁の決定は、地裁以上にフジに対して厳しい内容であると伝えたものさえありました。そのせいで、決定に不満を持ち、「汚い手を使ったライブドアに味方するとは何事か」といった感情的な内容の抗議電話を高裁にする者が多数出る始末でした。
  しかし、決定の全文を読むと、この決定は、フジにとって非常に有利なものであると言えます。以下の部分にご注目ください。
  「株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、例外的に,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しないと解すべきである。例えば,株式の敵対的買収者が、(中略)会社経営を支配した後に,当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合 」
  これは、ライブドアがフジテレビの買収の際に用いるであろう戦術の 1つである LBO ( Leveraged Buy Out )が事前に封じられたことを意味します。それ以外にも敵対的買収者の動きを牽制する内容が盛り込まれています。平たく言えば先走りでお節介な裁判所の警告ですが、フジテレビ株の値上がりによって、資金調達が苦しくなったライブドアに追い討ちをかける一撃となったことは間違いありません。決定の翌日、ソフトバンク・インベストメント( SBI )が、ニッポン放送からフジテレビの株式を借り受けるという発表をしたことにより、ライブドアは致命的な状況に陥りました。もちろん、 SBI の北尾 CEO が、高裁の決定を踏まえた上で参戦したことは、疑う余地がありません。
  私が問いたいのは、報道についてのマスコミ各社の姿勢です。今回の件に関し、堀江社長の報道軽視を非難し、メディアの使命は報道にあると主張したジャーナリストのどれだけが、東京高裁の決定の全文を読み、理解したことでしょう。あるいは、そんなことは百も承知で、視聴率なり売上なりを増やすために、決定の主文だけを取り上げ、事実を歪曲してセンセーショナルに騒ぎ立てたのかもしれません。いずれにせよ、報道に対する許しがたい冒涜です。この高裁決定は、一連の騒動のターニングポイントになった出来事であるという点で最も重要なニュースであっただけに、あまりの不甲斐なさに厭きれ返る思いです。
  もちろん、裁判所の判断は二転三転するものです。高裁の決定は最高裁の判決と比べれば、必ずしも判例として揺るぎないものであるとは言えません。ですから、仮にライブドアがフジテレビに LBO を用いて株式公開買付( TOB 《 Take Over Bid 》)を仕掛けたときに、裁判所がフジテレビの新株予約権の発行を絶対に認めるとは限りません。しかし、現時点では敵対的買収とその対抗策に関する一定の方向付けを示したものとしての価値があり、ライブドアが資金調達を打診したときに、金融機関に二の足を踏ませるだけの抑止効果があるのです。今般の高裁決定は、新株予約権の発行に関してはニッポン放送・フジテレビの主張を退けるという点で現行商法に適いつつ、ライブドアのような悪質な敵対的買収を防止するという点で今後の日本の M&A を健全に主導する画期的なものであると言えます。
  「新聞やテレビを殺す」という堀江社長の自説は論外ですが、高裁決定の深意を正しく報道しなかった既存のマスコミ各社は、報道機関としての責任を猛省するべきです。

 
平成17年4月1日
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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代表取締役会長
山崎 秀尚

 
 
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