COLUMN written by Yamazaki
第17回
 
腐った民営化 〜国鉄からJRへ〜
 
 

 
  私の父は国鉄職員でした。国鉄の安全を一番の誇りとする鉄道員でした。 4 月 25 日の朝、JR福知山線の事故を知ったとき、父の感想は、“まさか”ではなく、“やはり”でした。それほどJRの経営は、安全軽視の利益至上主義が蔓延しているのです。JR西日本の会長、社長は、いずれ辞任します。しかし、刑事責任や経営責任を追及されなかった役員についても責任がそれで終わるわけではありません。役員及び幹部は、事故現場のマンションを“自費”で購入して住みながら、日々反省しつつ早急に安全対策を図るべきであると私は考えます。
  国鉄からJRへ。事情を知らない多くの国民は、この民営化が成功であると考えていたことでしょう。職員の態度が良くなったとか車両や駅舎がきれいになったとか、目に見える表面的な部分はそうかもしれません。しかし、こと安全面に関しては、失敗の極みです。なぜなら国鉄時代の末期 には、こうした大事故は皆無であったからです。
  たしかに、国鉄時代にも 100 名以上の死者を出す大事故はありましたが、それらは高度経済成長期以前、すなわち東海道新幹線開業以前の大量輸送に関する安全対策が未発達な時期に起きたものでした。
  国鉄の安全綱領を以下に示します。
  1. 安全は、輸送業務の最大の使命である。
  2. 安全の確保は、規程の遵守及び執務の厳正から始まり、不断の修練によって築き上げられる。
  3. 確認の励行と連絡の徹底は、安全の確保に最も大切である。
  4. 安全の確保のためには、職責を超えて一致協力しなければならない。
  5. 疑わしいときは、手落ちなく考えて、最も安全と認められる道を採らなければならない。
  国鉄は、これほどまでに安全を重視し、三河島や鶴見などの大事故を教訓として、新幹線の乗客死亡事故ゼロを始めとする安全神話を築き上げたのでした。
  一方、国鉄には国民の非難を浴びる欠点が多数ありました。巨額の赤字、職員の勤務態度の悪さ、運賃の高さ、無法な労働組合等々。親方日の丸を良いことに、やりたい放題のでたらめな組織になっていたのです。父も組合員のサボタージュに愛想をつかし、職場環境があまりにも悪化したため退職しました。私も、駅員や乗務員の態度に激怒して揉めたことは数え切れません。
  そこで、政治家やマスコミは、国鉄の悪行をクローズアップし、民営化への道筋をつけました。ただし、民営化後の安全性については一顧だにされず、ひたすら財政の健全化のみが問題にされました。この時、安全性より収益性を重視する土壌が醸成されたのでした。
  では、肝心の債務の返済は順調だったのでしょうか。実態は、そうではありません。返済に不可欠であった国鉄所有地の売却を民営化直後の 80 年代後半という最適な時期には売却せず、バブル崩壊後の安値で売却して大損したのです。 87 年当時、中曽根内閣は、土地を売却すると地価高騰に拍車をかけるという理由で売却の禁止を閣議決定しました。“供給量が増えると価格が上がる”とは...経済学の基本すら理解していない、または、情報を私物化して土地投機で儲けるという利権のために虚偽の経済理論を持ち出した連中が、民営化を主導していたのです。腐った組織が、より腐った人間たちに利用されたのでした。
  もちろん、この失敗について、政治家も取り巻きの御用学者も、誰一人として責任を取っていません。それどころか、鉄道の安全を蔑ろにすると同時に、国民に必要以上の税金を投入させた元凶は、あたかも民営化が成功であったかのごとく喧伝し、世論をミスリードしています。騙されてはいけません。そもそも巨額の赤字は、彼ら政治家が自分の選挙区に新幹線を始めとする鉄道を採算を無視して誘致することにより膨張させたのですから。民営化後の現在ですら、政治家は相変わらず整備新幹線の計画をごり押ししています。逆に、東京・大阪間のリニアモーターカーは、建設の予定すら白紙のままで、ついには、中国に先を越されてしまいました。
  私は国営事業の民営化には基本的に賛成です。民間にできることを国がする必要はないというのは正論です。また、多くのJR職員が全力で職務に精励しているのは、疑いようがありません。しかし、中身を十分に吟味せず、古いものは悪であり新しいものは善であるという風潮には異を唱えたいと思います。改革という言葉は、政治家にとって都合の良い言葉です。その点では、道路公団や郵政公社の民営化も同様です。民営化が失敗したときのつけは、政治家ではなく国民に回されます。事故現場を視察するでもなく、国民に郵政民営化の説明をするでもなく、インドで歌に合わせて脳天気に手拍子している人間が、総理大臣であるというのは非常に危険なことです。今回の事故の被害者は、腐敗堕落した政治家、学者、経営者の利権や名誉欲の犠牲者であるという事実が、警鐘を鳴らしています。

 
平成17年5月1日
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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代表取締役会長
山崎 秀尚

 
 
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