COLUMN written by Yamazaki
第23回
 
プロ野球から夢を奪う者、去れ
 
 
 
  拍子抜けするような日本シリーズでした。阪神は一度もリードすることなくロッテに惨敗。プロ野球史上初の不名誉な記録を残してのシーズン終了は、非常に残念な結末でした。
  とはいえ、私は選手を非難するつもりはありません。それは阪神ファンに共通する心情でしょう。ペナントレースに関しては、中日とデッドヒートを繰り広げた末に優勝を飾るという中身の充実した年であったからです。とくに、中村豊のホームランで中日を突き放した試合のことは、ファンなら決して忘れません。主力も控えも個々の選手は、素晴らしい活躍をした一年でした。
  ところが、これに反して日本シリーズの価値を下げた原因は、日本シリーズ前の最も重要な時期に球団の上場という“提案”を持ち出した村上ファンドにあると言わざるをえません。
  たしかに、プロ野球もビジネスです。選手も球団もマスコミもビジネス、平たく言えば金儲けとして野球を利用しています。一方、プロ野球を支えているのは、金儲けどころか全く実利のないことに熱中しているファンです。選手も子供の頃はファンであったでしょうから、ファンの延長上にあります。日本人の男の子の多くは、一度はプロ野球選手になりたいと思ったことがあるでしょう。しかし実際には、どこかでその夢と決別して大人になってしまいます。
  ところが昨今、プロ野球はビジネスなのだから黒字にならなければ意味がないという考えが幅を利かせ始めています。日本に蔓延しつつある市場原理主義の一形態です。では、市場原理主義の母国であるアメリカの球団が全て黒字であるかといえば、必ずしもそうではありません。ほとんどの球団は赤字です。もちろん観客動員数の増加を図ったり、選手の年俸を抑制しようとしたり経営努力はしているのですが、今も昔も赤字が当たり前の世界です。経営不振に陥ればオーナーが変わります。そのオーナーも赤字に耐えられなくなれば、次のオーナーにバトンタッチです。赤字になることが分かっていても次のオーナーは現れます。それが毎年のようにどこかのチームで繰り返されます。なぜそんな現象が起きるのかといえば、オーナーになる第一の目的は、オーナーになることそのものだからです。子供の頃からオーナーになりたいからなるのです。であるからこそ、アメリカではオーナーもまたファンの延長上にあります。ファンは、チケットを買って観戦しても儲かりませんから常に赤字です。資産家は、球団を買ってオーナーになるという夢を叶えて赤字です。むしろ、球団を転売したときに収支がどうなるかが、ビジネスマンとしての腕の見せ所です。
  一方、日本では子供の頃に野球をやったことも見たこともない人物が、オーナーや機構幹部の中に相当数います。社会的地位のオマケとしてプロ野球の中枢に位置することになるのです。プロ野球をたまたまついた仕事としか捉えていない彼らは、ファンの心理を全く理解していません。そのため、利益至上主義の愚策がファン離れを起こし、野球人気が低下して減益につながるという悪循環を生み出しているのです。ファン=顧客です。顧客満足度の低いサービスがビジネスとして成り立たないことは、経営学を持ち出すまでもない話です。立場や方向性こそ違え、村上ファンドも同様です。
  なぜ、村上氏は日本シリーズを球場で観戦しなかったのでしょう。要するに、ファンが怖かったからです。もし、“提案”がファンに受け入れられるのであれば、村上氏は大歓迎されたに違いありません。村上コールの一つも起きたはずです。その自信があれば堂々と甲子園球場に行けば良かったではありませんか。しかし、現実はそうではないのです。つまり、村上氏は球場に行かなかったことで、この“提案”がファンのためではなく、金儲けの方便に過ぎないと自白しているのです。
 
平成17年11月1日
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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代表取締役会長
山崎 秀尚

 
 
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