COLUMN written by Yamazaki
第34回
 
『安倍晋三の経済政策を読む』を読む
 
 


  「安倍銘柄の紹介本か?」
  私は、我が目を疑いました。前代未聞、次期首相が確実視される人物(発売当時)の対談集に、首相就任後にメリットを受ける企業のリストが載っているのです。
  もちろん、著者で対談相手である日興シティグループ証券の藤田勉は、リストアップされた企業は安倍氏個人との関係はなく、自分の考えであると強調していますが、私は好ましい紹介方法ではないと思います。まして、対談部分には安倍氏が、ある未公開企業を宣伝しているかのような話があり、唖然としました。
  私は、これら安倍氏の行為に違法性があるとは思いませんし、悪気も感じません。であるからこそ、政治家として問題があるとも言えます。つまり、安倍氏には、こうした批判を受けかねないことをチェックし、止めさせる側近がいないということです。
  たとえば、小泉氏の場合、森派のスポンサーである西武グループが建設した住宅地のある横須賀港馬掘地区の護岸工事の予算を要求したり、東京湾口道路(横須賀から千葉の富津までの世界最長の吊橋)の計画を推進したりしながら、そうした行為は目立たないように情報統制し、バレンタインデーのチョコレートすらもらわないという国民受けしそうなエピソードでクリーンなイメージを演出しました。このような小泉氏と比較して、安倍氏には脇の甘さが感じられます。
  しかし、本書を読む限り、安倍内閣の基本的な経済政策は、見掛け倒しに終わった小泉内閣よりは優れていると私は考えます。
  まず、経済成長をもたらす最大の要因がイノベーション(技術革新)にあるという安倍氏の思想は、まさに正鵠を射ています。小泉氏が提唱した「改革なくして成長なし」の本丸である郵政民営化で GDP が上昇することはありませんが、イノベーションによって上昇することは明らかです。たとえば、近年の日本経済は、 IT 関連事業そのものや IT を活用して生産性が向上した分野によって辛うじて支えてきました。もし、 IT がなければ失われた 10 年は、より悲惨な状況に陥っていたことでしょう。逆に、郵政民営化が 10 年前に実現していれば IT の代わりに日本経済を牽引したとは誰も考えません。 IT に続くイノベーションが、これからの日本経済に必要であることは間違いありません。イノベーションを実現するために政府が支援するというのは、成長戦略の王道です。
  次に、安倍内閣はオープンな対外関係を目標にしています。オープンの内容には、投資のみならず、制度や規格の国際的な統一も含まれており、日本の人口減少に連動する消費者の減少を補うためにアジアの成長を取り込む狙いもあります。そのためには、小泉氏の靖国参拝問題で悪化した周辺諸国との関係改善が不可欠であり、安倍氏は首相就任から間を置かずに訪韓、訪中できるように既に準備を進めています。
  もうひとつのキーワードであるチャレンジは、しばしば「再チャレンジ」と表現され、マスコミでも取り上げられています。ところが、安倍氏の真意は「皆チャレンジ」にあるようです。つまり、誰もが失敗を恐れずに起業できる環境を整備するということです。これは、資本家、企業家、地主の階級と労働者階級との格差を固定化させないという点で、機会の均等を保障する資本主義社会では重要な方針です。
  以上の三点は当たり前すぎて面白みがないかもしれませんが、郵政民営化に代表されるような個人的趣味に国民が付き合わされた観のある小泉内閣よりは、まともな政策ばかりです。
  本書の内容で唯一気がかりな点は、財政再建について、経済成長による税収増を機軸に据えてはいるものの、それに伴う金利上昇による国債の利払い負担の増加に関する説明がないことですが、そこを除けば、ほぼ納得できる経済政策が記されています。国債発行を 30 兆円以下に抑えて財政再建するという公約を掲げて、失敗した後は大したことではないと開き直った小泉氏に比べれば十分に合格点です。できもしない大袈裟な公約で国民を扇動することがないのは、好感が持てます。
  今後、安倍内閣が、来年の参院選や再来年の北京五輪以降に起こる可能性が高い中国の不況など次々と訪れるハードルを乗り越えるのは困難を極めることでしょう。外部環境の変化やスキャンダルによって退陣を余儀なくされるリスクは、小泉内閣より高いかもしれません。しかし、イノベーション、オープン、チャレンジの三つの言葉に象徴される経済政策が実現できれば、五年以上も在任期間がありながら不良債権処理以外に特筆すべき成果がなく、日経平均株価が 11% しか上昇しなかった小泉内閣以上の結果を残すかもしれないと期待しています。

 
平成18年10月1日
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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代表取締役会長
山崎 秀尚

 
 
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